最高裁判所第二小法廷 昭和25年(あ)475号 判決 1953年1月23日
主文
本件上告を棄却する。
当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
弁護人伊井豊石の上告趣意第一点について、
論旨の引用する大審院判例は、申告にかかる犯罪の成否に影響のない目撃者如何というような事項について虚偽の申告をした場合に、なお誣告罪が成立するかという争点について専ら判示しているのであって、同罪が成立するためには申告者において申告事実の虚偽なることを「確定的」に知っていたことを要するか、それとも「未必的」な認識があれば足るかという問題について、特に確定的に知っていたことを要する旨の判断を示した趣旨ではない。されば本件において原判決がこの点につき誣告罪の成立するためには申告者が申告した事実について真実であるとの確信なきに拘らず敢えて該虚偽の事実を申告するを以って足る旨判示したからといって、論旨引用の前記判例と相反する判断をしたということはできない。従って、所論中判例違反の主張は理由がなく、その余の論旨は刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。(なお、誣告罪が成立するためには、その主観的要件として申告者がその申告した事実につき、その虚偽たることを確定的に認識していたことを必要とするものではなく、未必的な認識があれば足りるものと解するを相当とするばかりでなく、第一審判決が証拠により確定し、原判決が是認した事実に徴すれば被告人の本件告発は極めて軽々になされたものであって、到底その適法性を認めることができない以上、被告人は誣告罪の刑責を免れることができない。)
同第二点及び被告人の上告趣意はいずれも刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。
なお記録を調べても、本件につき刑訴四一一条を適用すべきものとは認められないから、同四一四条、三九六条、一八一条により、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)